特講 私にとって文学部とは何か
「遠方のパトス」のために
哲学科教員の人文エッセイ & 書き下ろし授業
ゼミ生の卒論、修士論文が書けずどん底だった院生時代に光となった論文、筆者の心でかがやき続けるテクスト15篇など―。
法政大学のゼミでは「哲学と芸術の交わり」をかかげる哲学科教員の、文学と文学部にまつわる人文エッセイ & 書き下ろし授業
【本文より】
……私が学生諸君に望むのは「自分で考え、意見を言えるようになること」だ。私は彼らに対して、一貫して単独者であることを強いた。座席を指定し、同士的・恋人的な付き合いの人間は切り離して、見知らぬ者を隣に座らせ、授業中は相互に孤立させた。……
……本書は文学部を系統だって説明した文章ではないし、講義録でもない。私は文学部を特権視しているわけではない。世の中には、水蒸気のような、ワインのような、お神酒のような余剰に憑かれている人間もいると、そしてそんな人間が語っている場もあるのだと、ご理解いただけたら幸甚である。
【目次】
序章 遠方のパトスのために
1 教師になって失ったもの
2 取り憑かれたように信じてしまう
3 哲学と芸術の交わりを掲げて
4 学生Y君の発表
5 学生S君とN君の回答
6 学生K君の卒論
7 扉はゼミの学生諸君
第1章 私の心に残る15のテクスト
1 生の思い出―バタイユ「ニーチェについて 好運への意志」
2 赤い花の伝言―夏目漱石「それから」
3 国境の湖を渡る二人―ヘミングウェイ「武器よさらば」
4 追憶も忘却も消えていく世界へ―立原道造「のちのおもひに」
5 虚空に憑かれた《垂直の精神》―埴谷雄高「虚空」
6 夜に目覚める―カフカ「夜」
7 偽侯爵、雨の夜空に札束を撒き散らす―ドストエフスキー「悪霊」
8 西欧中世との呼応―小池寿子「死を刻む時計 ストラスブール」
9 十七歳、生の魅惑が眼前に広がりだす頃―室生犀星「性に眼覚める頃」
10 厳しい簡潔さー向田邦子「かわうそ」
11 観念と現実―谷崎潤一郎「少将滋幹の母」
12 美と行為の相克―三島由紀夫「金閣寺」
13 歴史とその外部―マルタ・モラッツォーニ「最後の任務」
14 翻訳の妙―フランソワ・モーリャック「テレーズ・デスケール―」
15 かつての出会いと別れに杯を。そして何と多くの新たな可能性が!―ニーチェ「悦ばしき知識」「遺された断想」
第2章 文学共和国によせて
1 京都でのバタイユ講義
2 仏文科の魅力
3 自然は最高の教師
4 内側からの生命の表出
5 信州の自然と父
6 メディアの暴力
第3章 愛の国へ
1 文学と愛
2 バタイユと研究のはざまで
3 虚空への愛
4 愛が広いフランス
5 百度の沸騰
6 真理への愛
7 愛をめぐる人間の生き方
8 砲弾が炸裂する塹壕で
9 ベルルとプルーストの文通
10 嘘も真理への愛
11 真理の探究と性の問題
12 性の言説と生権力
13 性の告白小説
14 言葉の奥にあるもの
終章 レトリックにかけた夢
1 生きるためのペシミズム
2 観照のディレンマ
3 ニーチェの真理体験
4 ニーチェの夢とレトリック
5 存在の重荷と弱音
6 パトスを文章にのせて
7 十人十色の大学教師
8 ディオニュソスの酒甕
【著者】
酒井健 さかいたけし
1954年生まれ。東京大学仏文科卒。パリ第一大学に論文を提出し博士号取得。法政大学文学部教授。フランス現代思想、西欧文化史。『ゴシックとは何か-大聖堂の精神史』で2000年度サントリー学芸賞。
著書に『バタイユ そのパトスとタナトス』(現代思潮新社)、『バタイユ入門』『ゴシックとは何か』『「魂」の思想史』『ロマネスクとは何か』(ちくま書房)、『バタイユ 聖性の探求者』(人文書院)、『絵画と現代思想』(新書館)、『バタイユ 魅惑する思想』(白水社)、『死と生の遊び』(魁星出版)、『バタイユ』『夜の哲学』『バタイユと芸術』(青土社)、『シュルレアリスム』(中央公論新社)など。
バタイユの訳書に『至高性』(共訳、人文書院)、『ニーチェについて』(現代思潮新社)、『純然たる幸福』『ランスの大聖堂』『エロティシズム』『ニーチェ覚書』『呪われた部分』(筑摩書房)、『ヒロシマの人々の物語』『魔法使いの弟子』『太陽肛門』(景文館書店)がある。
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